★『投槍北欧神話特別篇・1』

ヘイムダル・スピンオフ捏造神話。
お笑い成分ひかえめ。

【はじめに】
一部の公式設定を除き、フル捏造ストーリーです。ご了承ください。

このシリーズはヘイムダルの母=波の乙女という説を基に、ヘイムダル=海神エーギルの一族という前提で進行します。
この説がお好きでない方には誠に申し訳ないのですが、この設定を外すと話の骨子が成立しなくなるので…えー…ごめんなさい。
あと俺の趣味で、ヘイムダルは比較的若い神とゆー事になっております。よろしこ(・ω・)

記事タイトルが『投槍北欧神話特別篇』となってますが、実は…考えたサブタイトルの漢字がWEBフォントに対応してなかったので、仮に特別篇と銘打っておきました。

↓サブタイトルはこちら(・∀・)


虹霓奇譚、はじまりはじまり~(゚∀゚)o彡゜


今は昔。
冷たく広がる海に、まだ満ち潮も引き潮もなかった古い時代。
塩辛い水面を揺り動かすのは、波の乙女と呼ばれる9人の女神達でした。


ある夜明けのことです。
乙女達の暗い海原に旭日が差し込むと、辺り一帯が真っ白く光りました。
そして輝く波しぶきが結晶し、それはそれは可愛らしい男の子の形となったではありませんか。

9人の乙女『なんて眩しい子なのかしら。この子はきっと世を照らす神になるわ』

母となった9人は幼子に”世界を照らす者”……すなわちヘイムダルと名付けて抱き上げました。


【Wikipedia Commons】
Heimdal and his Nine Mothers (1908) by W. G. Collingwood, in which Heimdallr’s Nine Mothers are depicted as waves

9人の母達は可愛い我が子を大切に育てたそうな。
そのおかげか、生来のものか……


彼はズバ抜けた視力と聴力を宿し、力も強く、美しく、そして何より心の清い立派な男となったのです。
母達はどんなにか息子を自慢に思っていたでしょう。

しかし子供はいつか巣立つ時が来るものです。
成人したヘイムダルは軍神として力を奮うべく、故郷の海を後にしたのでした。
きっとその日の海は9人の母が流した涙で、かさを増していたに違いありません。

旅立った彼が目指すのは……


神々の国アースガルドです。

ここには邪悪な巨人達と対立する戦神や戦乙女、死せる英雄達が暮らしています。
ヘイムダルの様に優れた男にはもってこいの国でしょう。


ヘイムダル(この先がアースガルドか……)

外界から神国へと導く通行路はたった一つきり。
静かに燃える虹の橋ビフレストです。
彼は意気揚々とした足取りで、架け橋を渡って行きました。
すると虹は若い神の重みで、僅かに揺らいだのでした。


こうしてヘイムダルは戦死者の館ヴァルハラにやって来たのです。

神々『わいわいがやがや(´∀`(´∀`(´∀` )』

彼の通された大広間には新入りの若者を一目見ようと、多くの神々がひしめき合っています。
しかし肝心の玉座は空っぽで、高座には王妃のフリッグだけです。
彼女は大層美しい女神でしたが、どこか不安げな表情を隠しきれませんでした。
夫である王が姿を見せないせいでしょうか?
ヘイムダルにとって軍神の一柱に加わる晴れがましい日ですのに、王はどこへ行ったのでしょう。

ヘイムダル『……』

彼は凪いだ海の様に落ち着き払った顔で、直立不動の姿勢を崩さず、待ち続けました。
随分と時間が経った頃です。
広間の扉を開き、甲冑に翼を生やした戦乙女が歩み出でて、宣言しました。


戦乙女『さ、最高神オーディン様の…おなりです…』

そして、たったそれだけ告げると、彼女は震えながらサッと顔を伏せたのです。
他の神々も皆、さっきまでの賑わいが嘘の様に静まり返りました。
一様に唇を噛み締め、自分の爪先を見つめるばかり。
アースガルドを統べる最高神の登場ですから、恐れを成しているのでしょうか。

戦乙女が翼を畳み、恭しく跪くと、豪奢な衣装を身にまとった男が現れました。
黙ったまんまの神々の群れが行儀よく左右に分かれ、中央にまっすぐな道ができます。
男は長い外套を颯爽と靡かせながら、当然の様にその道を進んで行き、玉座にどっかりと腰を下ろしました。
そして静寂の中、高らかに声を張ったのです。

 

 


オーディン?『私が超~偉い最高神オーディンである!(プークスクス』

それは確かに高貴な装束を纏っていますが、ヘラヘラと笑いながら大威張り……どうにも軽薄そうな男でした。
これが神を束ねる王なのでしょうか。
実のところ、神々や戦乙女達は、この男の姿を出来る限り視界に入れない様、一生懸命に笑いを堪え、俯いていたのですが……

ヘイムダル『……(ジィィィィ』

ヘイムダルただ一人が高座の男をまじまじと見つめます。
穴が開いてしまいそうな程に。

沈黙の時が流れます。
やがて痺れを切らしたのか、王を名乗る男は急かし始めました。

オーディンっぽい者『どーした、新参者。最高神に挨拶せぬか。ほれっ、ほれほれ、跪いて崇め奉りまくれ!(プークスクス』
ヘイムダル『…はい。それでは僭越ながら御挨拶させて頂きます』

こう言うや否や、ヘイムダルは踵を返し、神々が作った道を広間の出入口に向かって歩き出しました。
そして開け放たれたままの扉から出て行ってしまったのです。
自称王は慌てて止めようとしましたが、もう間に合いません。
なぜ止めようとしたのかって?
それは……


ヘイムダルは廊下で佇んでいた給仕に向かって跪いたのです。

ヘイムダル『拝顔の栄に浴し、恐悦至極に存じます。オーディン様!』
オーディン『”拝顔の栄”か…。参内する前から私の顔は知っていたんだろ?その浄天眼でな』
ヘイムダル『はい。わきまえず不調法つかまつりました』
神々『おおおー!』
偽オーディン『ま、マジかよ…(゚Д゚;) 』

そうです。
王の服を着た男は真っ赤な偽物で、本物の最高神は使用人の身なりに変装していたのです。
しかしヘイムダルは遠く離れた場所も見通せる不思議な目を持っていて、郷里に暮らしている時分から神々の国を眺めていました。
つまり王が入れ替わっている事など、まさしくお見通しだった訳です。
口をつぐんでいた神々もこれにはびっくりして、どよめきます。

更に、ヘイムダルは玉座の方にちらりと視線を向けて、こう言いました。

ヘイムダル『念のため先様の眼帯の中も拝見しましたが、眼球を2つお持ちでしたので』

オーディンは隻眼の神です。
王を名乗る男は目が2つ揃っていましたから、言い逃れのしようもありません。
途端に偽物は浅ましい悲鳴をあげました。

偽オーディン『イヤーッ、こいつノゾキの変態野郎よーッ!!逮捕してーーッ!><;』
神々『お前が言うな(´Д`;(´Д`;(´Д`;)』

見当違いの糾弾に神々は呆れ顔でしたが、気にも留めずヘイムダルは言葉を続けます。

ヘイムダル『それに…』

~ヘイムダル回想~


ヘイムダル参内直前のアースガルド。

神々『噂の超能力ボーイが初出仕しますよ!ワクワク(´∀`(´∀`(´∀` )ワクワク』
怪しい男『ケッ!千里眼&地獄耳なんて、絶~~ッ対ェ、イカサマだぜ!』
オーディン『お前と違って実直そうな男だったぞ』 ←千里眼チェアで偵察済
怪しい男『ちょっとお義兄様の服貸してみww俺がトリックを暴いてやんよ!wwwww』
オーディン『ほー。賭けるかね?』

~回想終わり~

ヘイムダル『…と先様は話しておられました』
オーディン『うむ。一言一句、違えておらんな。順風耳も確かな物だ』
神々『おおおー!』
偽オーディン『う、ウッソだろ…(゚Д゚;)』

ヘイムダルは目と同じく、耳も遠く離れた場所の音を聞き取れる力があったのです。
またしても神々はびっくり。

偽オーディン『イヤーッ、こいつ盗聴の変態野郎よーッ!!逮捕してーーッ!><;』
神々『お前が言うな(´Д`;(´Д`;(´Д`;)』

本物のオーディンは偽物の罵声に耳を傾ける事なく、新参の神に悠然と語りかけました。

オーディン『歓迎しよう、ヘイムダル。さっそくだが最初の命令だ』
ヘイムダル『何なりと仰せ下さい』
オーディン『悪戯者に賭けの代償を言ってやれ』
偽オーディン『うっ、ううぅ…((TдT;))』

可哀想に偽物は顔から血の気が引いています。
ヘイムダルはそんな様子にもやっぱり気を留めません。
すぅ、と息を吸い込んでから、度肝を抜かれる程に大きな声を発したのです。


ヘイムダル『”マジモンだったら、一ヶ月断食してやらぁ!wwww m9(^Д^)プッギャギャー”

その声ときたら、偽物が意地悪な企みをしていた時と、まるで同じ大きさでした。
地獄耳の持ち主でなくとも、世界のどこにいたって聞こえそうに思えます。

偽オーディン『ちょwwwwまwwwwww』

偽物はそこまで言い当てられて、完全に進退きわまりました。


オーディン『負けを認めたら、さっさと私の服を返せ。………待て、ここで脱ぐな!!』

偽オーディン『わーったよ。奥で着替えて来らぁ…(⊃д⊂)』

男は背中を丸め、いかにも哀れっぽい仕草で靴だけ履き替えます。
すると、何という事でしょう。


偽オーディン『……と見せかけて、あばよ!(ヒューン!』

彼自前の靴にはこれまた奇妙な力があり、たちまち宙を舞って遁走したではありませんか。

神々『逃げた!!wwwwwやると思った!wwww』

これには神々も大笑い。
オーディンは溜息をつきながら、赤毛の神に命じます。

オーディン『トールよ、ロキを捕らえて参れ。無論、生け捕りでな』
トール『分かってるさ』

悪戯者の捕縛を言いつけられたのは、オーディンの息子である雷神トール。
屈強な軍神達の中にあってなお、がっしりと立派な体格が目立つ男です。
雷神は大股でのっしのっしと広間を出て行きます。
『私の服を傷つけるなよ』とオーディンが注文を付け加えた頃には、随分と先まで廊下を歩いていて、とっくに声なんて聞こえていなさそうでした。
その様子を横目に、ヘイムダルは考えました。


ヘイムダル(ロキ。あの男がオーディン様と血の契りを交わした義弟とは面妖な)

彼はロキの名も、ロキが最高神の義兄弟という事も、ずぅっと前から知っていました。
それでいて、なお信じ難いと、オーディンの真意を計りかねていたのです。
王の側近としては、あまりにも道化じみていますもの。

そんな胸中を察しているのか、いないのか。
オーディンは玉座に腰掛けると、ヘイムダルを側に呼びました。


オーディン『ヘイムダルよ、初仕事を祝して褒美を取らせるぞ』
ヘイムダル『いえ、その様な大した事では……』

ヘイムダルは分別のある男でしたので、褒美を遠慮するつもりでした。
しかしオーディンはこう告げたのです。

オーディン『そうだなぁ、これからはお前を”白き神”と呼ぼう』
ヘイムダル『……!有り難き幸せにございます』

ヘイムダルは思いがけない贈り物に驚き、喜びました。
勝利の神オーディンが考えて発した言葉は、彼の大いなる力で祝福されます。
彼に名前を貰った戦士はどんな戦でも負け知らず。
オーディン発案の名を名乗る人間の一派なんて、最高神が応援したくない、と思っていたとしても勝利を収めてしまう位なのですよ。
ええ、オーディン本人の意思にかかわらず、ね。

フリッグ『”白き神”…、それはよろしいわ。本当に白くて綺麗な子だこと』
神々『すげー!期待のホープや!(´∀`(´∀`(´∀` )』

王妃は軽く微笑み、ヘイムダルを祝いました。
神々も大興奮で彼を褒めそやします。

この様にして、9人の母から生み出された”世界を照らす者”は、アースガルドの”白き神”となったのだそうな。
その美しい名の通り、彼の前途は明るく輝いているかの様に思われました。

つづく。

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【むすびに】
俺は北欧神話を読んでいて常日頃から胸に思っていたのです。

ヘイムダルってロキのライバルの割りに、エピソード少なくね?
因縁あんまなくね?
ラグナロク時のロキ対戦相手は、オーディンかトールのが良かったんじゃね?

……と。
二人の性格や社会的ポジションからすると、好敵手としての対比はバッチリなのに、相討ちに至るまでの前提エピソードが貧弱過ぎる!
ブリーシンガメン事件くらいやんけ。

とゆー訳で、ライバル関係を勝手に補強して自己満に浸るコーナーができました。
全6話くらいを予定。
次回以降はギャグ成分0になるので、えー…暇を持て余した時に読んでみて下さい。

【追伸】
『白き神』と名付けたのはオーディン、とか諸々のエピソードは全部嘘なんであしからず。
真面目な北欧神話を知りたい人はちゃんとした本を読んで下さい。

  1. ご無沙汰しておりました!!
    ロキもヘイムダルも好きなので楽しみです……!
    頑張ってください♪( ´▽`)

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