★『投槍北欧神話特別篇・2』

ヘイムダル・スピンオフ捏造神話。
お笑い成分ひかえめ。

『虹霓奇譚・1』の続き(・ω・)

【お断り】
本来、第2話はもうちょっと長かったのですが、いくらなんでも長過ぎだろう…と判断し、分割してお届け致します。
つまり…全6話って書いたけどもっと伸び~る(・ω・)

本格的に捏造がヤベー事になっているので、常に閉じるボタンを押す用意して下さい。


今は昔。
人間界ミッドガルドを取り囲む冷たい外海は、海神エーギル&ラーンが支配していました。
正確に言うと…この二人、神々と血の連なりはありません。
元は海に棲まう巨人でしたが、時を経て神々と轡を並べる者となったのです。

エーギルの城は溺死者から捧げられた黄金でいっぱい。
9人の波の乙女は海王の実娘でしたから、幼少のヘイムダルもこの館に出入りしていました。


フィマフェング&エルディル『あーいそがし、あーいそがし!(・∀・三・∀・)シュバババ』

エーギル配下の召使い達が忙しく動き回り、御殿はいつでもきちんと整えられていたものです。
贅沢な食事に、上等のお酒。
夜だって明かりの代わりに輝く黄金。
何の不自由もない暮らしに思えました……。


ある時のこと。
幼きヘイムダルは岸辺にて海獣の親子と遊んでいました。
そして、ふと族長エーギルに尋ねてみたのです。

ヘイムダル『どうして私には父がいないのでしょう』
エーギル『おチビさんもマセた事を言う年になったか』
ヘイムダル『……』

エーギルはふざけてみせましたが、聡い子の真っ直ぐな視線を躱せそうにもありません。
ちょっぴり考えると、こう答えたのです。

エーギル『父か……。”父”ならいるさ』
ヘイムダル『本当ですか!?どこに!?』

思わぬ答えに幼子はパッと目を見開いて驚きます。
海神は空に向かって指さしました。

エーギル『”父”はこの先にいる。お前なら見えるかもな』
ヘイムダル『……大きな虹が架かっています』
エーギル『もっともっと先だ。銀造りの城に高座があるだろ?』
ヘイムダル『はい。白髪で隻眼の神が腰掛けています』
エーギル『その御仁こそ”我らが父”だ』
ヘイムダル『”我らが父”……』


その日からです。
ヘイムダルが天上のアースガルドばかり眺める様になったのは。

……。
そして……時は移り変わり……。


最高神オーディンから新しい名を贈られたばかりのヘイムダルは、笑いさざめく神々に囲まれていました。

オーディン『どうだ、皆の者。白き神の頼もしさ。これで我が国は安泰であるな!』
神々『ほんと素晴らしい力の持ち主ですね!(´∀`(´∀`(´∀` )』
ヘイムダル『それほどのものでは……』

男神達は千里眼や地獄耳があれば戦の切り札になる!と奮い立ちましたし、女神達は輝く美貌と端正な振る舞いに胸をときめかせます。

しかし。
いつの世でも捻くれ者はいるものです。
持て囃される白き神を快く思わない輩がただ一人。


ロキ(いい気になりやがって…)

ロキです。
彼はペテンがバレて逃げ出したものの、トールに首根っこを掴まれて無理矢理に連れ戻されたのでした。
人垣から遠く離れた所で、ヘイムダルを睨みつけています。

オーディン『今日からは私を”父”と呼ぶ事を許そう』
ヘイムダル『はっ!』

アースガルドの神々はみんな、最高神オーディンを”我が父”と崇め、仕えていました。
神の生まれでも、巨人の生まれであってもです。
エーギルが語っていたのはこの事だったのですね。

神々の父は若者の肩を叩きながら上機嫌で続けました。

オーディン『お前がもう少し早く生まれていたら、私の義弟に迎えても良かったがね。いや、まだ遅くはないのかな?w』
神々『ははは、オーディン様もまだまだお若い!(´∀`(´∀`(´∀` )』
ヘイムダル『滅相もない事です……』

冗談めかしとはいえ、もしアース主神と義兄弟の契りを交わせたなら、それ以上の栄誉は現世に存在しないでしょう。
神々は歓声をあげましたが、慎み深いのかヘイムダルは俯きます。

そして。
聞き耳を立てていた本来の義弟ロキは、ギリリと歯を食いしばり、固く握った拳は大きく震えていました。
それはそれは恐ろしい形相でした。

オーディン『では白き神の前途を祝し、乾杯といこうではないか』
神々『そうしましょう、そうしましょう(´∀`(´∀`(´∀` )』
トール『誰かさんは一ヶ月断食だから、一滴も飲めねーけどな!w』

からかわれたロキは舌を出して怒鳴り返します。

ロキ『ケッ!要らねーよ、そんな不味い酒!』

強がってはいましたけれど、食いしん坊のロキはお腹が空いて堪りません。
自業自得の行いも忘れ、ヘイムダルに一方的な恨みを募らせたのでした。


日は暮れかかり……。
白鳥の翼を生やした戦乙女達が、ロキを除く全ての神に酒を給仕して、読んで字の如く飛び回ります。
その忙しそうな姿に、ヘイムダルは郷里のフィマフェングとエルディルを思い起こしました。

それぞれに蜜酒が行き渡ると、オーディンは盃を高く掲げて全軍に呼びかけたのです。

オーディン『我らがアースガルドと白き神に、一万年の栄光あれ!』
神々『カンパーイ!!(´∀`(´∀`(´∀` )』
ヘイムダル『御期待に添うべく、尽力いたします』

新参の神は盃を一息で飲み干しました。
こうして。
その夜は白き神を囲んで、遅くまで楽しい宴が催されたのでした。
誰かさんを抜きにして……。

 

明くる日の事。


大広間のオーディンは難しい顔で、何やら考え事を巡らせていました。
寄り添う妻フリッグも無言で見守ります。
そんな時は他の神々や戦乙女だって王妃に倣い、黙って取り巻くのです。

玉座の前に据え置かれていたのは……


将棋盤でした。

対戦相手はいません。
一人で金の駒と銀の駒が入り乱れた盤面に向かい、それでいて駒を動かす素振りは全くないのです。
ただ、じっと視線を落としているだけ。
時間が止まったかと錯覚しても、おかしくない光景でした。

その光景を変えたのは例の若者です。


ヘイムダル『オーディン様、宜しければ私めがお相手いたします』

遠巻きの神々は一斉に顔が青ざめました。
沈黙の不文律を破った若者が、咎を受けはしまいかと案じたからです。

唐突に対局の申し出を受け、オーディンは顔を上げました。

オーディン『お前は嗜むのかね』
ヘイムダル『指した事はございません。ですが神々の皆様が楽しまれるのを拝見して覚えました』
オーディン『この私を相手に初陣を望むとは恐れを知らぬ男だ』

言葉とは裏腹にオーディンは嬉しげに口角を上げました。
そして駒の一つをつまみ上げると、挑戦者に投げて寄越します。
ヘイムダルが難なく片手で受け止めたそれは、金無垢の君主像でした。

オーディン『良かろう。金軍を持ちたまえ』

神様の将棋では金の駒を持つ者が先手に指し、銀は後手。
先手の方がちょっぴり有利なので、ヘイムダルは得をした訳です。

様子を窺っていた戦乙女は仕合が始まると見て、ヘイムダルのために金の椅子を一脚運んで来ました。
若き神は玉座に向き合って腰を下ろすなり、白い指をせっせと動かし、金の駒を並べ直します。

彼の行動が王の不興を買いはしなかったので、周囲から安堵の息が漏れました。
かと思えば、今度は顔を見合わせ、ひそひそ声で話し始めます。

神A『よし、僕は106』
神B『98』
神C『120にします』
神D『私は114かと』


何やら数字を宣言すると、めいめい懐から金貨や指輪を取り出し、近くの卓にそぅっと置いたのです。
ヘイムダルが最後の駒を置き終わり、神々の内緒話が鳴り止むのを待って、オーディンは人差し指で宙にルーン文字を描きました。
するとどうでしょう。
盤面で散り散りに配されていた銀の駒が一斉に浮かび上がり、戦闘開始の陣形に降り立ったのです。
最高神は魔術の使い手でもあるのですよ。

オーディン『待たせたな』
ヘイムダル『お願い致します』

ヘイムダルは初手を元々、考えてあったのでしょう。
挨拶と同時に奥まった場所の駒をほんの一歩だけ前進させます。
それは軍旗を掲げた兵士像でした。
背伸びしながら盤を覗き込んでいた観衆は、動いた駒を見てクチをあんぐりと開きました。

神A『なんだあれ(´Д`;)』
神B『まさかルールを知らないのでは?』
神C『彼、さっき初めてと言ってましたし……』
神D『しまった。もっと小さい数が良かったかぁ(‘A`)』

ヘイムダルが第一手に選んだ旗手は、序盤の戦局にあんまり関係の無い駒だったのです。
これではせっかく有利な金軍を貰ったのに、ハンデを捨てたのと同然。
戦術を知らぬのかと、神々は文句を言ったり、がっかりしたり。
生真面目な戦乙女も翼で口元を隠して、こっそり笑っていました。

それでもフリッグだけが相変わらず静かです。
その瞳は泉水の様に煌めいていました。

オーディン『ほお。そんな所から始める奴は、これまでに無かった』

オーディンは感慨深く評します。
しかし……、ヘイムダルはこう答えてしまったのです。

ヘイムダル『定石を指したのでは、到底勝てないでしょうから』
オーディン『……勝つ……?』

上機嫌だったはずのオーディンは、若者の言葉に一転して眉をひそめました。
広間中がまたしても静まり返ります。

オーディン『お前が?私に?』
ヘイムダル『例え主神様が相手だろうと、始めから負けるべく戦うのは武神の名折れでしょう』

ヘイムダルが堂々と礼儀知らずな言葉を放ったので、観衆はもう軽口など利けません。
今度こそ最高神の逆鱗に触れた……と怯えきっていました。
オーディンは震える神々の方に顔を向けながら、ヘイムダルに問いかけます。

オーディン『神の国を眺めていたのならば、あの者らが何を賭けているか知っていよう』
ヘイムダル『ええ。投了の手数です』

106、98、120に114……。
つい先刻、神々がクチにしたのは全て偶数でした。
後手の、この場合は最高神の勝利を意味します。
知略に長けた戦神オーディンは将棋でも無敗を誇っていました。
つまり”対局の勝者”を賭けの対象にしても面白くないので、”投了の手数”を推量する博打という訳です。

それを知りつつも、臆する事なく勝負を挑まんとする者は前代未聞。
神の王はその恐ろしく鋭い隻眼で、若者の真っ直ぐな瞳を覗き込みました。

オーディン『白き神よ、お前は狂戦士(ベルセルク)の素養があるな』

ベルセルクとはオーディン配下の兵士達の事で、ひとたび戦となれば自我を失って敵を殺戮する獰猛な存在。
白き神の向こう見ずとも取れる戦意をなぞらえて、こう称した訳です。

オーディン『では狂戦士に敬意を込めて』

オーディンは再び空中に魔法のルーン文字を綴りました。
今度は銀の駒が1つだけ宙を舞い、一歩前進します。
……こちらも金軍と同じく旗手の駒でした。

つづく。

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【お詫び】
既にバレバレだとは思いますが、俺は将棋・囲碁・チェスの類を全然知りません(ゝω・)v
取材と称して古畑任三郎の将棋回&囲碁回を観たんですけど、やっぱ駄目なモンは駄目でした。
テキトーな描写でごめんなさい。

なお、シナリオは全編捏造ですが、北欧神話にボードゲームが登場するのは本当。
日本語訳では将棋だったり碁だったりしますが、駒取り式なのか陣取り式なのかルールはよく分かりませんでした。
金・銀の駒とか旗手がどうとかはド嘘なので、良い子は信じちゃいけませんよ。