第3楽節『ニヨルドの宴・1』


今回のテーマはみんな大好き『ニヨルドの宴』で謳われる神・ニヨルドについて。
『イドゥンの林檎』の続編でもあります(・ω・)ノ


今は昔。
最終戦争ラグナロクが勃発する、ずぅっと前。
巨人シアチの元から女神イドゥンが救い出された翌朝のこと。

シアチの娘スカジは雪山スリュムヘイムで父親の帰りを待っておりました。
しかし鳥に化けた父親は神々の本拠地グラストヘイムまで深追いし、焼き殺されたため二度と戻ることはないのです。
一晩経っても帰還しなかったので、スカジも『父は神に殺されたのだ』と理解しました。


スカジ『おのれアース神め…。父の無念を晴らしてやる!!』

スカジは倉庫から父の装備を取り出し、単身アースガルドへ乗り込むことに決めました。
北欧神話の世界では『血縁の絆を穢した者には復讐をする』もしくは『高額の慰謝料をぶん獲る』のが重要な倫理規範となっています。
神でも巨人でも、親兄弟が殺されて何もしない奴はカス呼ばわりされます。
仇討ちはともかく慰謝料でもOKっていうのは、日本人の時代劇観とはちょっと異なりますね。

こうして。
復讐心に燃える巨人の娘は、門番神ヘイムダルが守護する虹の橋ビフレスト(アースガルド国境検問所)にやって来ました。


ヘイムダル『こんにちは。アポイントメントはお取りですか?』
スカジ『やぁやぁ、我こそはスリュムヘイム領主シアチの娘スカジ!父の仇を討ちに参った!』
ヘイムダル『少々お待ち下さい。担当者に連絡致します』

(WIS)
ヘイムダル『オーディン様、巨人シアチ氏の御令嬢スカジ様がお見えです』
オーディン『なに、昨日の巨人の娘か。それでスカジとやらはどんな感じだ?』
ヘイムダル『敵討ちすると息巻いておられます』
オーディン『馬鹿か、そんなこと聞いておらん。可愛いか可愛くないかを言え
ヘイムダル『可愛いです』
オーディン『よし、通せ』

当然脚色ですが…!
ヘイムダルは門番神なんだからこういう巨人と戦うのが仕事なんじゃないの?と思うんですよ。
それなのに害意剥き出しのスカジをあっさりアースガルドに通したってことは、女癖さいあくのオーディンがアホな期待をしたとか、そんな事情がきっとあったに違いありません。
スカジが巨人の中で上位ランクの美人だったのは原典事実です。

さてさて。
スカジは神々の前まで案内されました。


スカジ『父の仇どもめーー!!(゚Д゚#)』
神々(そもそもお前の親父が先に手を出して来たんじゃないか…)
オーディン『巨人の娘よ、敵討ちに燃えるお前の心は孝行の鑑だ。しかし、我々もこれ以上の血が流れることは望んでおらん。父を討った償いとして黄金を受け取ってはくれまいか』

主神は慰謝料の支払いを申し出ました。
オーディンは気に食わない奴はすぐ拷問して殺す、ろくでもない神です。
その彼が懐柔に出たってことは、やっぱスカジが美人であわよくば…!とか狙ってたんじゃないでしょうか。

スカジ『父の遺産がたっぷりあるからカネなんか要らないもん!』
オーディン『では、お前の望む形で慰謝料を納めよう』
スカジ『ニヤリ…(`∀´)』

スカジは主神の言葉を待っていたかの様に、こう切り出しました。

スカジ『神の中から選りすぐりのイケメンを私の婿に!』

オーディン(よし!!男が目当てだ、この娘!!)

…主神が心の中でガッツポーズしたかは当然、定かではありません。
しかし仇討ちの代わりの慰謝料が結婚でもOKって、よく分からない感性です。
なんぼイイ男でも敵の一味に違いないでしょうに。

しかし主神の期待とは裏腹に、スカジはとんでもねー要求を続けたのです。

スカジ『アース神で一番顔が良い男・バルドゥルをよこしなさい!』
オーディン『ナニイイイイイ!!?』

紹介しましょう。

バルドゥル
バルドゥルとは主神オーディンと正妻フリッグの長男で、光を司る神です。
アース神族の王子様ですね!
『ロキは魅惑的な容貌』とか『ヘイムダルは大変な美形』とイケメンな神が多い北欧神話の中で『バルドゥルは神の中で最も美しい』としつこく強調されているイケメン・オブ・イケメンな神。

スカジの要求は更に続きました。

スカジ『そして、私の怒りを鎮めるだけの笑いをくれたら許す!』
オーディン『…よかろう。ただし、夫選びには条件を課す』
スカジ『?』
オーディン『顔を隠された男神達の足だけを見て夫を選ぶのだ』

オーディンがなぜこんな条件をつけたのか。
普通に考えると、バルドゥルは主神の正統なる後継者で、全ての神々から信頼されていた神なので『ウチの自慢の息子をホイホイやれるかバーカ!』ってことなんでしょうけど。
俺の解釈はこうです。

怒りのオーディン
オーディン(こ…この小娘、よりによってバルドゥル狙いだと!?
確かにバルドゥルは私に似て見目麗しいよ…!
だが、主神たるこの私を眼前にして、わざわざソッチ行くか!!?青二才じゃないか。
違う意味の方の『私の息子』に惹かれろよ!
若い娘は若い男が好きってか。ああ、そうさ。私はアース神族で最年長さ。
イドゥンの林檎で若作りしてるけどジジィさ。ケッ!この恋路、邪魔してやるぞ!!)

『自分の目の前で息子がモテたから嫌がらせした説』を提唱します。
まだまだ現役の親父としては複雑ですよね。

主神の真意はともかくスカジもその条件に承諾したので、すぐさま男の神々が婿選びのために招集されたのです…。
さてはて、アース神族はスカジの怒りを鎮めることができるのでしょうか?
第3楽節『ニヨルドの宴・2』に続きます。

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