第21楽節『神々と賠償金・5』

投槍北欧神話・第21楽節『神々と賠償金・1』
投槍北欧神話・第21楽節『神々と賠償金・2』
投槍北欧神話・第21楽節『神々と賠償金・3』
投槍北欧神話・第21楽節『神々と賠償金・4』
の続き(*’ヮ’)


エーギルの館にて
今は昔。
慰謝料用の黄金を調達するため、ロキはゆっくり海神エーギルの館を訪れました。
海神エーギル&ラーン夫妻は溺死者から巻き上げた黄金をうなるほど持っています。
しかしロキは黄金とまるで関係無さそうな『溺死の網』という不吉アイテムだけを借りて去ったのでした。

洞窟を歩くロキ
ロキは人間界の海を渡り、平原を歩き、暗い洞窟へと入ってゆきました。

長く曲がりくねった地下道をずっと進むと、そこはもう人間界ではなく黒妖精の国。
神話中でキモオタ扱いされている黒妖精です。
彼は洞窟内部にある大きな地底湖の前で歩みを止めました。

ロキ『ていっ!( ゚Д゚)ノシ』

そして海神からレンタルした溺死の網を湖面に投げ込んだのです。
しばらくすると水に沈んだ網の先で、何か手応えを感じました。

ロキ『おーえす!おーえす!(゚Д゚)』

力いっぱいに引き上げて網を見遣ると、ピチピチ跳ねる一尾のマスが絡め取られています。
ロキは活きの良い魚を鷲掴みすると、ドスの効いた声で語りかけました。

ロキ『よぉ、正体を現しな』
マス『……(ピッチピッチ』
ロキ『さっさと正体を現さねーとバター焼きにして喰う!』
マス『Σ』

魚の正体
ガラの悪い神が脅しつけると、マスはみるみるうちに姿を変え、ブサイクな小男になったではありませんか。
マスの正体はアンドヴァリという名の黒妖精でした。

アンドヴァリ『ヒィ~、オラは魚に変身してロハスに生活する、ただの善良な黒妖精だ~!』
ロキ『ロハスな生活って流行ってんの…?』
アンドヴァリ『何でもするから、命ばかりはお助けを~!』
ロキ『そーかそーか^^死にたくねーなら、有り金を全部出しな
アンドヴァリ『エ~ッ!?』

最高神オーディン考案・黄金大作戦の全貌がようやく明らかになりました。
ずばり強盗です。
金持ちだけど非力なキモオタ黒妖精を脅迫して黄金を巻き上げる…これが知識の神が捻り出した最適解!
オーディンは千里眼の玉座を使って、地底湖に魚姿で暮らすアンドヴァリの存在を前々から知っていたのでしょう。
だからロキに『溺死の網』という海神のフィッシングアイテムをわざわざ借りに行かせたのです。
うん、これはもう最高神じゃなくて最低神と呼ぶにふさわしいアイディアですね。


アンドヴァリ『ウエ~ン、オラが何したって言うだ…TT』

可哀想に何の罪もないアンドヴァリは泣きながら、ありったけの黄金を掻き集めました。
ロキに差し出した量、大きな皮袋に二つ分。
黒妖精はやっぱりブルジョワジーだった。
これならフレイドマルの要求金額に足りそうですが…。

アンドヴァリ『これでオラの黄金は全部ですだ…』
ロキ『ちょっとその場でジャンプしてみな』
アンドヴァリ『え…ジャンプっスか…ピョンピョン!』

チャリンチャリン!(金属音)

ロキ『(*’ヮ’)…………』
アンドヴァリ『…………(‘ヮ’*)』

ロキ『全部出せって言ってんだよキモオタ』
アンドヴァリ『エ~ッ!?』

アンドヴァリは99.99%の保有黄金を袋に詰めていましたが、たった一つだけ隠し持っていた物がありました。
それは黄金細工の小さな指輪でした。
彼が指輪を差し出さなかったのには理由があったのです。

アンドヴァリの指輪
アンドヴァリ『こ、これは黄金を生み出す魔法の指輪ですだ…。他の黄金がなくなっても、この指輪さえあれば再生できるだ…』

アンドヴァリは、この指輪で黄金を無限錬金して金持ちになったんですね。
…あ、あれ…?どっかで聞いたことある効果だぞ…?
ツッコミは後回しにします(*’ヮ’)
例え追い剥ぎされても指輪さえ残っていれば資産が元通りになるので、黒妖精は渡したくなかった訳です。
しかしロキに発見された上、素晴らしいアイテム効果を明かしてしまったので、当然…

ロキ『へー、すげぇーな。だったら、なおさら寄こせ
アンドヴァリ『嫌ですだ~~!これだけは御勘弁を~~~!!TT』
ロキ『スティール !!』

黄金の指輪 1 個獲得。

アンドヴァリ『ア~~~~~ッ!?』

アンドヴァリは必死で抵抗しましたが、盗みのプロであるロキに指輪を奪い取られてしまいました。
この時のロキの台詞を投槍フィルター無しの原典版でお読み下さい。


ロキ『進んで差し出さない物は、必ず力ずくで取られるものなのさ』
  『北欧神話物語』K・クロスリイ-ホランド 青土社(1983)より引用

格好つけて言うことか、ドロボー野郎(゚Д゚ )

古代北欧は戦争と略奪の地。
神話の中でも弱肉強食。
人生には抗えない無情の運命が待ち受けていると古代人は…、ウーン。
駄目だ、どんなに好意的に解釈しようにもサッパリ格好良く思えねぇ。

ロキ『おー、見た目もイケてるじゃん。慰謝料には袋2杯もありゃ足りるだろうから、こいつは俺が個人的に貰っとこう♪

錬金性能だけでなくアクセサリーとしてのデザインを気に入って、ロキは指輪を自分の指に装備しました。
つまりオーディンの命令である『キモオタ黒妖精から黄金を強盗して慰謝料に当てよう☆作戦』とは無関係の私的な強盗です。
完全にフォロー不能だ、この男…。
義兄が義兄なら、義弟も義弟。最低ブラザーズ(‘A`)

虎の子である指輪まで盗られたアンドヴァリは正真正銘の一文無し。
もう錬金術で資産を回復することはできません。
金の無い黒妖精はただのキモオタです。
何一つ悪いことをしていないのに、神々から目を付けられたばっかりに…。
アンドヴァリは絶望と怒りの余り、強盗犯に向かって叫びました。

黄金に呪いをかける黒妖精
アンドヴァリ『呪ってやるだ!オラの黄金でリッチな生活なんかさせねぇ、みんな不幸にしてやるだ!!』
ロキ『…そいつは返って、おあつらえ向きだぜ☆ミ』

黒妖精はせめて一矢報いようと、黄金に災いの魔法をかけたのです。
しかしロキは呪いの言葉にも動じず、むしろ喜んだ様子でクスクス笑いながら地下道に消えたのでした。
黄金がみっしり詰まった袋を背負って。

次回に続く。

【投槍解説】
ドラウプニル
第17話で俺は書きました。
オーディンは装備・家屋敷がオール黄金製の金満家で、『九日ごとに同じ質量の腕輪を八個生み出す』という無限錬金ツール黄金の腕輪ドラウプニルを所有していると。
そう、最高神は自分の家に帰れば黄金なんか掃いて捨てる程ある上に、放っといてもドラウプニルで黄金はまた増えるのです。
それなのに、なぜロキに強盗を命じたのでしょうか?
以下、想像。

1.ドケチだから
オーディンは孫娘スルーズを武器代金に契約した(推定)男です。
自分の財布からビタ一文だって支払いたくなくて、強盗させたのでは…。
しかし自分の命がかかってるのにケチを発揮している場合なのか!?
そこで俺は2案を考えました。

2.嫁にバレたらヤバイから
フリッグの待つ自宅まで、ロキに黄金を取りに戻らせて事件が発覚しちゃったら…
荒ぶるフリッグ
フリッグ『だから旅は危険だと言ったじゃありませんか!もう外出禁止!!
絶対に↑こうなります。
外出を禁止されたら趣味の旅行もナンパも不可能になる…。
フリーダム神のオーディンには耐えられないことです。

大体、最高神が監禁されて身代金をせびられるなんて、メンツ丸潰れの珍事。
ファミレスでメシ食った後に財布無いのに気づいて家族に電話するより恥ずかしいことですよね。
嫁や他の神にも知られる訳にいかなかったので強盗という作戦を立てたんじゃないかな(・ω・)

  1. 北欧神話は何百~千年前の話だから良いのだ(キリッ

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