第5楽節『神々の戦争と平和』

北欧神話の神様にはオーディン率いる『アース神族』と、豊穣を司る『ヴァン神族』がいます。
今回はその二つの神族の関係についてです。
北欧神話の中では割りと初期のお話(*’ヮ’)


今は昔。
イグドラシルの幹に九つの世界が大方できあがってから後。
ヴァン神族の魔女グルヴェイグが、アースガルドを訪れた日のこと。

魔女を接待するオーディン
オーディンは自分の館で魔女を接待していました。
ホスト役の彼はどうも御機嫌斜めです。

グルヴェイグ『黄金ってホント素晴らしいんじゃよ~あの輝きタマラン!(゚∀゚)ゲヒャヒャ』
オーディン(だからどうした…。私の戦装備だって黄金の甲冑だよ…)

アース主神が御自らもてなしているというのに、魔女グルヴェイグは大の黄金マニアで延々と黄金の話ばっかりです。
昔の社会では大体そうですが、北欧神話世界で黄金は最も価値のある財宝でした。
豊かに実った麦穂・稲穂に似た輝きの美しさ、時を経ても劣化することのない性質が人間の心を惹きつけるのですね。
格の高い神や巨人は黄金をうなるほど持っています。
オーディンの装備も黄金製。
ROのグラストヘイムはシックな佇まいですが、原典版だと内壁・外壁共に総金張りのド派手な建物だったりします。

グルヴェイグ『( ゚∀゚)o彡゚おうごん!おうごん!』
オーディン(馬鹿でも美女なら許せるが、熟女を通り越してババアではないか…)

主神は黄金馬鹿な婆さんに嫌気が差し、槍で突いて拷問の末、火あぶりにかけました。
しかし魔女は妖力で灰の中から無傷で蘇ってきます。
3回火刑に処してもピンピンしていました。

グルヴェイグ『見よ、これが黄金ぱわーじゃ!\(゚∀゚)/ゲヒャヒャ』
オーディン『ウワァ、キモイ!この魔女を追い出せ!』

魔女は主神の城から放り出されました。
しかし、困った事にこの魔女は、真っ直ぐ自分の国には帰らなかったのです。
アースガルドで不気味なサバトを開いたり、トランス状態で謎の呪文を連呼するなど迷惑行為に及び、アース神の顰蹙を買ってから帰郷しました。

そして、この婆さんは…

仲間にチクる魔女
グルヴェイグ『オーディンに拷問されましたじゃ!。・゚・(ノД`)・゚・。』
ヴァン主神『Σババ様に何と無体なことを!』
(※ヴァン主神について調べたんですが分かりませんでした。戦神フレイ&フレイヤが主神という解釈もあります)
ヴァン神達『アース神、許すまじ!(゚Д゚#)』

アースガルドでの出来事を自分の主神にチクりました。
ヴァン神族はオーディンの行いに激怒し、報復のためアース神族に宣戦布告したのです。
荒ぶるオーディン
オーディン『私に喧嘩を売るとは上等だ!スピアブーメラン !!』

軍神オーディンはノリノリで応戦しました。
あー、…うん。
オーディンが悪い。
グルヴェイグという魔女は邪悪な存在だったのかも知れませんが、客人を拷問して火あぶりって…そりゃ身内は怒るでしょう。
ただ、オーディンに限らずこの世界の神様は大体こんな感じのメンタリティです。

アース・ヴァン神族戦争は長きに渡って続きましたが、戦力が拮抗していたので決着は着きそうもありませんでした。
これ以上の消耗は得策でないと判断した両軍の主神は、和議を結ぶことで合意。
和平交渉の結果、仲直りの交流として『幹部クラスの神をお互いに派遣し合う』&『アース・ヴァン神族全員の唾を集めて賢者を作る』という話でまとまりました。

賢者クヴァシル
この時に誕生したのが第一話で登場した賢者クヴァシルです。

それではアース・ヴァン神族から選ばれた代表を紹介しましょう。

ヘーニル・ミーミル
アース神族代表:射手神ヘーニル、賢神ミーミル

ヘーニルはイドゥンの林檎編でオーディン・ロキとPT組んでた神です。
ミーミルはオーディンが片目を捧げた『知識の泉』の守護者で、最高神の母方の伯父。
旅のお供にする位だからヘーニルはオーディンのお気に入りなんだろうし、自身の尊属であるミーミルは重要人物でしょう。
戦争の原因を作ったのはオーディンですが、親善大使としてこの二人を選んだのは結構誠意を感じさせます。

ニヨルド・フレイ・フレイヤ
ヴァン神族代表:海神ニヨルド、戦神フレイ、美神フレイヤ

ニヨルドは後々になって、『ドキッ!!男だらけの足チラ大会』で優勝する海神。
双子神フレイ・フレイヤは彼の子供です。
彼らは親子揃って人間から篤い信仰を集めている、霊験あらたかな神様一家。
フレイは赤ちゃんの頃、『最初の歯が生えたお祝いに妖精国アールヴヘイムを貰った』という話があります。
すげー家柄なんですねというか、赤子に国を与えるニヨルドは親バカ過ぎませんか…。

まぁ、ヴァン神族もなかなか気合が入った人選ですね。
しかし、この人材交流には色々と問題があったのです…。

~アースガルドにて~

神A『オーディン様、ウチに派遣される予定のニヨルド一家なんですけど…』
オーディン『かなり有能な神らしいな』
神B『ニヨルドの嫁って、実の妹らしいんです(;´Д`)』
オーディン『ナニイイイイイ!』

ニヨルドは妹とデキていたのです。
なにこの現代日本で無駄に喜ばれそうな設定。
フレイとフレイヤは、ニヨルドが妹との間に作った子供です。

神C『妹と子作りなんて羨ま…けしからん!!』

ヴァン神族は近親婚OKだったのですが、アース神族では禁忌でしたからニヨルド一家の受け入れに否定的でした。
しかし平和のために『ニヨルドは妹である妻をアースガルドに連れて来ない』という条件で入国を許しました。
…本当に平和のためなのでしょうか…?

以下、事情を想像。
オーディンは腰掛けると千里眼Lv1使用可能になる玉座フリズスキャルヴを所有していたので、噂のニヨルド一家の様子をコッソリ覗き見することにしました。

オーディン『ニヨルドの子供二人は軍神と聞いた。私の寝首を掻くつもりかも知れん』

何せオーディン自身が単騎で敵地に乗り込み要人を暗殺する、非常にアグレッシブな男です。
一度、切り結んだ相手をそう簡単に信じるとは思えません。
しかし九つの世界を見渡せる千里眼に飛び込んで来た物は…!

オーディン、美の女神をノゾキ中
愛と美と戦を司る女神フレイヤ!!

オーディン『ナニイイイイ!愛と美を兼任する女軍神だと!?くっ…可愛いではないか…』

フレイヤは北欧神話で一番モテる女神で、神・人・巨人・小人…と全種族に多くの男性ファンがいます。
惚れっぽいエロ最高神も漏れなく彼女の魅力に打ちのめされました。

オーディン『ハッ、待てよ。軍神ということはアースガルドに派遣されれば、戦争と勝利の神である私の直属部下になるということだ。不慣れな土地での生活…頼り甲斐のある上官…信頼は憧れに変わり、憧れはやがて恋に…イケる!これはヤレる!!こんな素晴らしい女神を派遣しようとは、ヴァナヘイムの友情は本物だな!!』

オーディンは知識の神としての高INTをどーしょーもない妄想にフル回転しました。
口説き文句などを考えながら千里眼でフレイヤの姿を眺めていると、親しげな様子で彼女に近寄る若い男があります。

オーディン、双子を覗き中
オーディン『こいつは兄のフレイか。美神の双子だけあって、眉目秀麗な男だ。…何だ?やけに仲良いな、この兄妹…。ハッッ!!ヴァン神族は近親婚が可能…!不慣れな土地での生活…支え合う兄妹…家族愛はやがて恋に…まずい!これは断固阻止せねば!』

オーディンはフレイの入国を断る方策を考えましたが、優秀過ぎてケチの付け所がまるっきりありません。
どれくらい優秀なのかと言うと、リアル古代北欧においてフレイは元来『別な宗教の主神』で、信仰が統合された後もオーディン・フレイを同列にした石像が立てられるくらい。
そう、フレイはオーディンとタメを張れる能力の神だったのです。

オーディン『うぅむ、ならば親という外堀から埋めるか。妻との離縁をニヨルドの入国条件にしよう。アースガルドで近親婚は許さん!と釘を刺しておくのだ』

こうしてオーディンがフレイを恋敵認定したために、とばっちりでニヨルドは離婚するハメに。

アース神族&ニヨルド一家
ニヨルド一家赴任。

オーディン『ニヨルドよ、妻と別れるのは辛いだろうが、これも掟なのだ。理解しておくれ』
ニヨルド『いえいえ。郷に入っては郷に従え、ですよ^^』
フレイ&フレイヤ『これからはアースガルドに根を下ろして頑張ります(・ω・(・ω・*)』
オーディン『期待しているよ!色々な意味で!』

主神の隻眼は妙な期待で輝いていました。
はいはい、俺の捏造神話タイム終了。
原典の話に戻りましょう。

当初は近親相姦で嫌がられていたニヨルド一家ですが、家族全員が重要な儀式の司祭に任命されたり、フレイヤは軍神としてオーディンと勢力を二分したり、アースガルドでなかなか重用されています。
神話を読んだ感じ、仕事以外でも仲良さそうだし、人材交流うまくいって良かったですね(*’ヮ’)

一方、アース神族代表の二人はどうなったんでしょうか?
アース神族コンビは、賢神ミーミルが考えをまとめ、優柔不断な神ヘーニルがそれを音読するという仕事スタイルだったそうです。
…頭の良いミーミルだけ送り込めば良かったんじゃないですか…?

またしても勝手な推測ですが、ミーミルは声がものすごく小さい神様だったんじゃないかと思います。
だからスピーチ役が必要だった。
ヘーニルの名前は『弓手』の意で、背も高くて強そうな外見だったそうなので、台詞さえ用意して貰えば偉大な神っぽい雰囲気を出せる。
ヘーニルとミーミルはお互いの欠点を補い合える名コンビとゆー訳で。
二人は一緒にバリバリ仕事をこなし、ヴァン神族から喜ばれました。

しかし、ピンで会議に呼ばれると…

ヴァン神『ヘーニルさん、A案とB案どちらが良いでしょうか?』
ヘーニル『うーん、どっちでも良いや。サイコロかなんかで決めて下さい…』
ヴァン神『………』
ヴァン神『ミーミル先生、御意見を伺いたい』
ミーミル『私が…思うに…ゴニョゴニョ…ヴァナヘイムの…気候……に適した…ボソボソ(超小声)』
ヴァン神『なに??聞こえないんですけど??』

二人ともコンビを組んで実力を発揮するホル・ホース型だったので、全然長所が出ません。
単品の彼らを見て、ヴァン神族は『こいつら使えねぇー(‘A`;)』と思ってしまいました。

そして…

ミーミル死亡
ヘーニル『あっ、ミーミルが殺されてる…。まぁ、生きてても死んでてもどっちでもいいや…』

解雇・免職のことを俗に『首切り』と言いますが、ミーミルはリアルに首を切られました。
冒頭のオーディンも酷かったけど、ヴァン神族も負けてませんね…。
神様のメンタリティって大体こんなんです。

ヴァン神族はミーミルの生首をヘーニルに持たせて、アースガルドに送り返しました。
なんでヘーニルが殺されなかったのか不明ですが、多分見た目が強そうだったからでしょう。
性格がいい加減だったためなのか、以後の話でオーディンと旅をしても活躍の場は一切無し。
存在感が空気な神様です。
しかし最終戦争ラグナロクでほとんどの神が死滅する中、なぜかヘーニルは生き残ります。
そして他の生存者と共に新世界の創造に関わるとかなんとか。
な…納得いかねぇ…。
なんでこいつが選ばれし者的な存在に…。

ヘーニル
ヘーニル『ラグナロク?まぁ…世界が滅んでも滅ばなくてもどっちでもいいや…』

絶対こんなこと言ってるよ…。

さて。
ミーミル伯父の無残な生首と対面したオーディンは、賢い神の死を惜しく思いました。

オーディン(この頭の中には膨大な知識が詰まっているというのに…)

主神は自分の部屋に賢神ミーミルの首を持ち帰り、特製の薬草を塗りこめて呪文を唱えたのです。

喋る生首ヘーニル
オーディン『これでよし。伯父上、円周率は?』
ミーミル『π = 3.14159 26535 89793 23846 26433 83279 50288 ボソボソ…
オーディン『成功だ!…しかし相変わらず超小声だな。』

オーディンは魔術でミーミルの生首に喋る力を与え、彼の知識を自分の物にしたのでした。
えーと…。
死体の脳ミソをいじくって知識や記憶を自分の物にするって、悪の組織のマッドサイエンティストがやることじゃないですか!?
ROで言うと、生体研究所の科学者ボルゼブみたいな。

原典で『オーディンはミーミルの首に薬草をつけました』までを読んで『ああ、蘇生してあげるのかな。オーディンって優しい!』って感激したのに!
俺の感動を返せヽ(`Д´;)ノ

そして最大の疑問は『アース→ヴァン神族交流は失敗しているのに、なぜ第二次神族戦争が勃発しなかったのか?』ということです。
そもそも開戦のきっかけは『うざい客人をオーディンが拷問した(ただし無傷)』じゃないですか。
ミーミルさんが殺されちゃってるんだから、和平条約を破棄したって良いと思うの…。
ここで宣戦布告しなかった理由は

オーディン『ヴァン神と再戦したらフレイヤを殺さなくてはならないから嫌だ!』
オーディン『ミーミルの知識は私の中で生き続けるから問題ない』

こんな感じじゃないかと…。
今回もまた主神がワガママってオチすか。

真相は藪の中ですが、以降に神族戦争があったという記載はなく、ニヨルド一家もアースガルドに馴染んだので、きっとアース・ヴァン神族は仲良くお付き合いしたんでしょうね。
めでたしめでたし…かな?(*’ヮ’)

ミーミル『私…の立場…は…ボソボソ』

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