第18楽節『世界の始まり』

2010年も投槍北欧神話を生温かい目で見守って下さい
皆様あけましたおめでとうございました。

新年一発目とゆーことで、今回のテーマは『始まり』。
世界のプロローグを描く神話らしい神話です(・ω・)
オーディンは『私が最高神!』と偉そうにふんぞり返ってますが、北欧神話世界の創造主…ではありません。
神様のお笑い珍道中じゃないので笑いどころはない!(゚Д゚)


今は昔。
世界の始まりの日から在ったのはイグドラシルというトネリコの大樹でした。
そしてイグドラシルの幹には、炎と氷が宿っていました。
炎の領域はムスペルヘイム、氷の領域はニブルヘイムです。
南からの熱波、北からの霜氷はギンヌンガガップ(大地の裂け目)で出会い、温かな水の滴りとなりました。
ギンヌンガガップってROだと武器名だけど本当は地名なのね(゚Д゚)

その水の中から、最初の『意思を持った生命体』が這い出でたのです。

霜の巨人ユミル
霜の巨人ユミルです。
ROのアイスタイタンって霜の巨人と何か神話的に関わりがあるのか?(‘◇’*)と思いきや全然ないですね…。

アウドムラ
二番目に生まれたのはアウドムラという牝牛です。

霜の巨人ユミルはアウドムラの乳を飲んでモリモリ育ちました。
そしてユミルは巨大な身体から出る汗や垢から沢山の仲間をこしらえて大地を支配したのです。
大きな体躯で力が強く、しかし醜い生物達…これが巨人族。

氷を舐めるアウドムラ
ユミルに授乳していたアウドムラ自身は氷とか食って生きてたらしーよ。
栄養価とかどうなのそれ…。

ある日、アウドムラが氷の塊を舐めていると塩辛い味がしました。
次の日も舐めていると、人間型の頭が出てきました。
三日目に舐めると、とうとう氷の中から全身が現れてブーリという美しい男が生まれたのです。

美形ブーリ誕生!
北欧神話で初誕生のイケメンです。ここ大事。
…ごめん、違う。
ユミルを祖とする巨人族とは別系統の種族が誕生しました。ここが大事。
この一派は大地の隅で少しずつ増えてゆきます。

ブーリの家系図
ブーリの家系図

ブーリにはボルという息子が生まれ、ボルは巨人族の美女ベストラと結婚しました。
そして、ボルがベストラとの間に成した三人の兄弟の名前がオーディン、ヴィリ、ヴェー。
オーディン様ようやく登場……!
そうです、これが北欧神話の主人公的存在・アース神族の始まりだったのです。
後の最高神オーディンは『世界の始まり』において、後発一族の三代目。
つまり若輩の新参者だった訳ね。
またオーディンの実母が巨人ってのもポイントです。
ベストラママは『ユミルの孫』なのでオーディンは『ユミルの曾孫』にあたりますが、分類は巨人族に属しません。
北欧神話は基本、男系社会!

巨人族を見て思案するオーディン兄弟
まだ目が二つあった頃のオーディンは、大地を我が物顔で闊歩する巨人族を見て思いました。

オーディン(力、智恵、見た目の格好良さ…全てに勝る我が一族こそが世界を統べるべきだ!)

彼は優れた能力を持ちながら世界の隅っこでヒッソリ暮らすことに我慢ならなかったのです。
オーディンは若い頃から、こーゆー性格でした。

ユミル討伐
世界を征服すべく、オーディンは弟のヴィリ、ヴェーと共に、巨人の王様ユミルを殺害しました。

これが後に軍神として崇められるオーディンが起こした最初の戦争。
巨大なユミルの死体からは膨大な血が流れ、文字通り血の海と化しました。
その濁流に飲まれて、ほとんどの巨人は溺死したのです…。
覇権を手にしたオーディンは元々巨人が暮らしていた大地をアースガルドと名づけ、その地でアース神族の王となったのでした。
彼の君臨するアースガルドは栄華を極めます。
しかし…

ベルゲルミルと妻
巨人がことごとく死滅する中、ユミルの孫・ベルゲルミル&その妻だけは命からがら逃げ延びていたのです。

木をくりぬいた小舟に乗った二人はユミルの血の海を漂い、それまで巨人族が暮らしていた温かな国から下層に位置するスッゲー寒い土地に辿り着きました。
ここが神話でいう巨人国ヨーツンヘイム。
凍てつく大地は新天地と呼ぶには過酷な環境でしたが、それでもベルゲルミル夫妻は子を成し、巨人族は徐々に力を取り戻してゆきます。

ベルゲルミルの子孫達
詩の蜜酒を手に入れたスッツング、その娘グンレズ
イドゥンを攫ったシアチ、バルドゥルに求婚したスカジ
城壁修理に来たおっさん
フレイが一目惚れしたゲルド
トールと決闘したフルングニル
今までに登場した、そしてこれから登場する巨人は全員ベルゲルミルの血を引いています。

ロキ
あと↑巨人族出身で最高神の義弟になったコイツもベルゲルミルの子孫です。

巨人族が神々と戦う理由。
それは自分達が生まれる遥か以前、一族を絶滅寸前まで追い込んだオーディンへの憎しみが原動力!
DNAに刻み込まれた怨嗟の記憶が故に、巨人族は神々と衝突し続けるのです!
北欧神話の終着点ラグナロクまで両者は戦い続け、そして共に滅びます。
『世界の始まり』の時点で、既に悲劇のトリガーは引かれていたのでした。
新春なのに全然めでたくない話になっちまった/(^o^)\

【投槍考察】
北欧神話の出発点は、持たざる者だった若きオーディンの成り上がりストーリーなのであります(‘◇’*)
ここで注視すべきは『オーディンは巨大な敵ユミルに勝った!強い!すごい!』…ではありません。
『巨人族を皆殺しにするなんて酷い><;』でもありません。
オーディン・ヴィリ・ヴェー三兄弟がユミルを倒すまで、自然発生した生命体達は流れのまま、あるがままに、ただその場所で生きているだけの存在でした。
本来ならば格下の生物だったオーディンが、生態系の頂点ユミルに挑み、打ち倒す。
このユミル討伐は、以後にオーディンが起こすどんな戦争よりも価値ある一勝です。
オーディン青年はただ『戦った』のではなく『革命を起こした』と言えるからです。

人間は古今東西のどんな民族でも『神』を崇めてきました。
一神教・多神教、男神・女神、動物神、様々な信仰の形態がありますが、そもそも神って何でしょう?
あらゆる神に共通する本質、それは『世界に秩序を与える者』ということです。
北欧神話においてオーディンは初めて世界に秩序を与えた者、だから彼は最高神なのです。
強い軍神だからでも、賢い知識の神だからでもない!

そしてもう一つ大事なこと。
これまでの記事で何回か書きましたが、北欧神話の根底に流れるテーマは

『この世には自分の意思では覆せない絶対的な運命が存在する』

…ということ。
神話世界においてオーディンは『生まれ持った運命に抗った最初の男』なのです。
ここ大事よ!
最終回までこのネタで引っ張るからね!

っつーのが投槍北欧神話の見解です(*’ヮ’)
アカデミックな考察…は参考文献を読んで下さい。

  1. 原作読んでても思ったんだけどなんでおーでぃん達はユミルの血で溺れなかったんだろう…

  2. エッ!?言われてみれば何でだろう…(;’ヮ’)
    うーん、うーん。
    オーディンは鷲に変化できる(第1話参照)ので、飛んで逃げたんじゃないかなっ!?(*’ヮ’)

  3.       ΩΩΩ←オーディン達
    ____○T ̄L_____←ユミル
      ↑ 血 の 海 ↑
    きっとこんな感じだったんだお!
    神話初のイケメンがテストにでるんですね、メモメモ・・・
    ん、なんか違う気がしないでもない(・ω・)?

  4. またしてもアゲハによる分かりやすいコメントが!(゚Д゚)

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