第30楽節『悪戯の代償・6』

審査委員:オーディン、トール、フレイ
投槍北欧神話・第30楽節『悪戯の代償・1』
投槍北欧神話・第30楽節『悪戯の代償・2』
投槍北欧神話・第30楽節『悪戯の代償・3』
投槍北欧神話・第30楽節『悪戯の代償・4』
投槍北欧神話・第30楽節『悪戯の代償・5』

名声ブラックスミス世界王者決定戦・後半戦へ。


イーヴァァルティの貢物の感嘆する神々
今は昔。
悪戯神ロキの思いつきで、名声ブラックスミス世界王者決定戦が開催されました。
先手イーヴァルディJr.兄弟が納めた三つの宝物は、いずれも素晴らしい性能で神々のハートを鷲掴み。
後手エイトリ&ブロックチームに勝機はあるのでしょうか!?

ブロック『ほな、ワテらの作品を見ておくんなはれや!(`ω´)』
ロキ『どうぞwどうぞw( ´,_ゝ`)ププ』

小人ブロックは兄と鍛えた三つの製造物(アクセサリー・猪・金槌)を抱えて、審査員の前に進み出ました。

黄金の腕輪ドラウプニル
ブロック『オーディン様には黄金の腕輪ドラウプニルを!』
オーディン『美しい彫金だが、当然それだけではないのだろう?』
ブロック『せや!ドラウプニルは九夜毎に、同じ腕輪を八つ自己複製する魔法がかかっとるで。タンス預金に倍々ゲームで利子が付く寸法や!』
オーディン『ほほう、画期的なシステムではないか!』
ロキ『ぐぬぬ…』

ヴァルハラ要塞やグラストヘイム城の建材は黄金だったりして、神々のゴージャスライフに黄金はいくらあっても足りません。
自動無限錬金できるドラウプニルは、オーディンの歓心を得ることができました。
ドラウプニルはこれまでの神話で幾度か紹介したアイテム(第12話第21話
オーディンの富を象徴するアイテムとなり、神話末期にも「歴史の流れに関わる大事な儀式」で使われています。
しかし本来の持ち主はオーディンなのに、ゲルドへの求婚でフレイもドラウプニルを結納してるんですが…?
増殖した方のドラウプニルを最高神から貰ったんでしょうかね。
イーヴァルディJr.のグングニールは武器として最高認定されましたが、ドラウプニルは資産アイテムとして、これまた最高水準を叩き出したと言えるでしょう。

人造生命グリンブルスティ
ブロック『フレイ様には人造生命グリンブルスティ(猪)を!』
フレイ『僕の眷属ですね(・ω・)』←見慣れてる

グリンブルスティはROだとVADを駆け回ってますが、人工生命体だったんスね(*’ヮ’)
オーディンが犬・狼を眷属とした様に、フレイ(+フレイヤ)は猪を使役していました。
猪は勇猛と多産を表わすので、戦争と豊穣を司るフレイにはピッタリの生き物です。
オーディン家が犬まみれだった様に、おそらくフレイ家も猪まみれだと思われます。

ブロック『ただの猪とちゃいまっせ!フレイ様の戦車を曳いて、陸・海・空を走れますのや』
フレイ『すごいじゃないですかー!(・ω・*)』
ブロック『毛皮はピカピカ光る黄金製やさかい、暗い夜道も安心やで~!』
フレイ『わー、サンタのトナカイみたいですー!!ヽ(・ω・*)ノ』
ロキ『ぐぬぬ…』

陸・海・空を走行可能という設定は、オーディンの馬スレイプニール第6話と被ってます。
スピードはスレイプニールが神話最速。
また瘴気に満ちた冥界ニブルヘイムに行って帰ってこれるのはスレイプニールだけなんで、グリンブルスティの方が乗り物として若干スペックは落ちるのかな。
一方、金毛で夜道を照らすという「ライト」の概念はグリンブルスティだけ。
アスファルト舗装の道路もオートモービルもなかった時代、夜駆けに事故は付き物。
この照明機能は嬉しかったと思いますね。

フレイへの捧げ物は戦艦スキーズブラズニル⇔グリンブルスティと、両者共に乗り物アイテム。
全軍神を輸送できる団体用の帆船、小回りの利く単騎用の戦猪…目指す方向性が異なるので、どちらが優れているとは即断し難いものがあります。
とりあえずグリンブルスティがフレイのメイン乗り物になったのは確か。

神A『うぅーん、世界王者決定戦だけあって、こちらも侮れない…』
神B『三巨頭の皆様も審査に悩まれるに違いない』

ここまでエイトリ&ブロックの貢物は、イーヴァルディJr.作品と何ら遜色無く、神々は嘆息を漏らすばかりでした。
問題は最後の「金槌」です…。

雷槌ミョルニール
ブロック『トール様には雷槌ミョルニールを!』 
トール『お、俺に武器って。。。お前もチャレンジャーだな。。。』
ロキ(出たな…(`∀´)ニヤリ)
ロキ『あれれ~、おかしいな~?このハンマー、見た目がアンバランスじゃない~?(*’ヮ’)』
ブロック『うっ…』

ブロックが金槌を取り出すと、すかさずロキがわざとらし~く口を挟みました。

ブロック『あー、ゴホン。ちょっとその…ほれ…』
ロキ『ちょっと何かな?^^』
ブロック『大したことやあらへん…ただ柄が…』
ロキ『柄が何だって?^^』
ブロック『柄がフツーの槌より、ちょっぴり短くなってしもたんや…』
ロキ『ほっほ~う。それはそれは~。審査員の皆様~、メモっておいてね~^^』
オーディン『分かったから、早くトールに演武させろ』

ミョルニールはロキが唯一、作成妨害に成功した武器。
卑怯者のロキは、ここぞとばかりにミョルニールの不具をアピールしたのでした。
ブロックは悪口にも、めげずにハンマーをトールへと捧げます。
しかしウィッグを手にしたシフが不安を隠せなかった様に、ミョルを握ったトールの表情もまた冴えません。
柄の長さがどうとか言う以前に、トールに武器を献上するのは、対オーディンとは別の意味でチャレンジャーでした。
彼は馬鹿力が過ぎる神だったので、フルパワーで振り回すと武器の方が壊れてしまうのです。
そんなトールに小人は満面の笑みでこう言いました。

ブロック『とびっきり頑丈に精錬させて貰ろたんで、壊れる心配はあらしまへんで!』
トール『ほんとかよ…?壊れても弁償しねぇーぞ…?』

トールは半信半疑で軽く素振りしてみました。
すると天候を司る彼の手に、ミョルニールが発する雷光が馴染んでゆきます…。

ミョルを装備したトール
トール(…チガウ…今までの武器とは何かが決定的に違う。スピリチュアルな感覚が俺のカラダを駆け巡る…!)

彼は意を決しました。
全神経を集中し、ミョルニールを持った腕を大きく振りかぶります。
そして…!

ハンマーフォール!!
トール『ハンマーフォール !!』

あらん限りの力を込め、ミョルニールを地面に撃ち降ろしたのです!
ミョルニールが大地と衝突した瞬間、辺り一帯に地震と稲妻を孕んだ爆風が巻き起こり、グラストヘイムの床に底の見えない大穴が開きました。

神々『お…おおぉ…』
オーディン『何という…ことだ…』
フレイ『すごっ…(・ω・;)』

アースガルドの神々は、どよめきました。
トールのパワーにだけ驚いたのではありません。
そこには今まで目にしたことのない光景があったのです。
トールの全力を受け留めたにも関わらず、キズ一つ付いていない武器という奇跡の存在が!

……(・∀・)
このミョル審査話は捏造演出である……(・∀・)エヘ

製作者ブロックの言葉通り、ミョルニールは極めて強靭に創られていたのでした。

神A『トールのパワーを活かせる武器がこの世にあったとは…(;´Д`)』
ブロック『それだけやあらしまへん。伸縮自在やし、小さくしてパンツの中にも仕舞えまっせ!』
トール『すげぇーよ!最高だぜ、お前!!』
ロキ『ぐぬぬ…』

パンツの中にも~は原典にそう書いてありました。
これは比喩でパンツと言ったのか、それとも本当にミョルはパンツ収納で持ち運びされたのか…。
パンツの中に仕舞ってある武器で殴られたら、ダメージは倍加しそうですけども。

グングニール・スキーズブラズニル・シフのウィッグ、ドラウプニル・グリンブルスティ・ミョルニール
さ~て。
以上を持ちまして、名声ブラックスミス世界王者決定戦のアイテムは全て出揃いました。

次回、名声ブラックスミス世界王者決定戦・表彰式!
イーヴァルディJr.兄弟とエイトリ&ブロック兄弟のどちらが勝者に選ばれるのか!?

【プチ解説】
オーディンのグングニール、トールのミョルニールは、以降の神話で彼らのメインウェポンとなっています。
神様パワーを誇示するための武器なのに、神様の自作じゃなくメイドイン小人国。
しかも頭丸刈り事件のお詫び…のオマケで創られたのです!
何て有り難味のないエピソードでしょうか。。
北欧神話のこういうちょっとオマヌケな所が大好きだ!

北欧神話の源流は青銅器時代頃まで遡るそーで、戦神や豊穣女神の青銅像が数多く出土しています。
しかし鉄器時代の幕開け頃、神話を伝承してきた民族は新素材「鉄」の加工技術において、他民族に遅れを取っていたんでしょう。
きっと鉄製品は輸入頼みで、そこから転じてドワーフスミス神話が生まれたのだと推測できます。

ファンタジー的には
・フレイが登場するので丸刈り事件は、アース&ヴァン神族同盟以後
・グングやミョルが登場する神話は、全てシフ丸刈り事件以後
…と、時系列が曖昧な北欧神話において歴史の流れを把握できる大事なエピソード。

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